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京都地方裁判所 昭和32年(ワ)916号 判決 1957年12月17日

原告

右代表者

法務大臣 唐沢俊樹

右指定代理人

大阪法務局訟務部長 今井文雄

法務事務官 藤田康人

法務事務官 去来川重二

同大阪国税局

大蔵事務官 中川利郎

京都市下京区中堂寺庄ノ内町一番地ノ七十八

被告

田中寿満

右当事者間の昭和三十二年(ワ)第九一六号建物所有権移転本登記手続請求事件について次のとおり判決する。

主文

被告は京都市中京区三条通千本西入天ケ池町三十五番地有限会社野村又七商店に対し別紙目録記載の建物につき京都地方法務局昭和二十九年八月十八日受付第二〇二三七号停止条件付所有権移転請求権保全仮登記の所有権移転本登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告代理人は主文と同旨の判決を定め、その請求の原因として「被告は昭和二十九年八月一日訴外有限会社野村又七商店に対する製糊用原料等の買掛金債務の弁済を担保するため被告所有の別紙目録記載の建物に根抵当権を設定し同時にその債務を弁済期に弁済しないときは建物所有権は代物弁済として当然訴外会社に移転する旨の停止条件附代物弁済契約を締結し、同月十八日京都地方法務局受付第二〇二三六号根抵当権設定登記及び第二〇二三七号停止条件付所有権移転請求権保全仮登記をした。そして被告は訴外会社に対し弁済期を昭和三十年四月末日とする買掛金債務金十九万四千三百円を負担したが、その支払をしないから、右建物の所有権は代物弁済により訴外会社に帰属した。

一方訴外会社はすでに納期を経過した法人税等国税金百十一万四千三百七十四円を滞納し且つこれを納付する資力が全くないから、原告は右租税債権保全のため訴外会社に代位して被告に対し訴外会社に右建物の所有権移転本登記手続をすることを求めるため本訴に及んだ。」と述べた。

被告は口頭弁論期日に出頭せず且つ答弁書その他の準備書面をも提出しない。

理由

被告は民事訴訟法第百四十条により原告主張の事実を自白したものとみなされる。右事実によると、原告主張の停止条件付代物弁済契約は買掛金債務の弁済を確保するため根抵当権設定契約と同時にされたものであるから、それは代物弁済の予約であると解するのが相当である。したがつて代物弁済により別紙目録記載の建物所有権を訴外有限会社野村又七商店に移転させるには、訴外会社において被告に対し代物弁済の予約完結の意志表示をする必要があるわけであり、被告の買掛金債務の不履行によつて当然に右所有権が訴外会社に移転したということはできない。しかし原告の請求は本訴において訴外会社に代位し右予約完結権をも行使する趣旨を含むものと解されるから、建物所有権は訴状の被告に対する送達により代物弁済として訴外会社に移転したものといわなければならない。

そうすると原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭)

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